おおいと旗を
今日出合った美しいことば、 「人が人を思うときの美しさ」。 人と人は永遠に わかりあうことはできなくて、 人と人のまんなかに流れてる 川は時々めっちゃ冷くなったり 深ーくなったりしてる。 それでもわかりあいたいと思う、 知りたいと思う、 出会いたいと思う。 違う国の住人に向かって おおいと旗を振ってみせたりしたいと思う。
しのびよる
春は母の命日までのカウントダウン、という しのびよる感じが心をおそうから一向に好きになれない。 毎年体調も悪くなるし、やたら敏感になるし、 早く過ぎ去ってくれたのむ〜と祈るようなきもちで 19時までベッドのなかにいたりする日もある。 来月で12年経つ。 一周まわった気がしている。 不思議と、今年の春はなんか芽吹いている、わたしが。 春、悪くないとさえ思っている。 終わったんだろうか。 ああついに抜けたのかな、と思う。 いや抜けてやるもんか、とも思う。 わたしが忘れたら誰が思い出してやるんだ。 忘れるもんか、と思う。だって長女だから。
暗号で軽口
ふらっと入った町中華で迷わず瓶ビールを 頼めるくらいは大人になってた冬。 暗号で、軽口を交換する。 のこった餃子をうまく使って3人で分けあうライス、 あきらめたレジ横の手羽先、永遠にたぷんと揺れる瓶詰めらっきょう。 ホテルに持ち帰った6ピースのチーズ。 書くことで、思い出すことで、誰にもさわれないところで、 夜の輪郭はまた濃くなる。
手元にふたつめの月
夜に仕事の文章を書く。 小説を読む。 たまに、声に出したりする。 趣味の時間(ドラム:さぼりぎみ)を予定どおりつくれたら、 悪くないわねと、自分をほめてやる。 大切な人とお酒を呑んだなら、 交わしたことばを思い出してにやにやしたり、 ちょっと怒ったりしながら、けむくさいコートをハンガーに吊るす。 ぜんぶ半径数メートルの世界。 そんな夜の、まぎれもない或る夜の、 溺れそうなくらいいとおしい時間のかさなりが、 手元にふたつめの月を灯してくれる。 と、信じて生きている。